HYROXのトレーニングをしていると、
「ラン単体なら走れるのに、スレッドの後になると一気にペースが落ちる」
「後半になると脚が重くなって、思うように走れない」
という経験をする方は多いのではないでしょうか。
HYROXで求められるのは、ただ速く走る能力でも、ただ重いものを動かす筋力でもありません。
高い心拍数と筋疲労がある状態でも、
次の1kmをある程度のペースで走り続ける能力が必要です。
そこで一つのトレーニング手段として考えられるのが、
低酸素環境を利用したトレーニングです。
低酸素下でのHIITについては、
通常酸素下のHIITよりVO₂maxの改善が大きかったとするメタ解析があります。
また、低酸素環境で短時間の高強度運動を繰り返す
Repeated-Sprint Training in Hypoxia(RSH)についても、
通常環境で同じトレーニングを行う場合と比較し、
特に反復スプリント能力への追加効果が報告されています。
ただし、ここは大切です。
「低酸素トレーニングをすればHYROXのタイムが上がる」と
直接証明されたわけではありません。
現在の研究から分かっている低酸素トレーニングの適応と、
HYROXで求められる能力に重なる部分が多いため、
「HYROX対策として活用できる可能性がある」と考えるのが正確です。
この記事では、その理由をできるだけ分かりやすく解説します。

目次
HYROXは、1kmのランニングと8種類のワークアウトステーションを交互に行う競技です。
つまり8kmを普通に走るのとは違います。
スレッドプッシュをした後に走る。
スレッドプルの後にも走る。
バーピーの後にも走り、ランジの後にもまた走る。
この構造がHYROXがきつい理由です。
実際、HYROXを対象とした2025年の研究では、
11名のレクリエーショナルHYROX選手によるシミュレーションレースを分析し、
高い心肺負荷が長時間続く競技であることが確認されています。
研究ではVO₂maxや持久系トレーニング量なども
パフォーマンスとの関連要因として調べられています。
つまりHYROXを強くしたいのであれば、
「ランニング」と「筋トレ」を別々に強くするだけでは足りない可能性があります。
重要なのは、ワークアウトで負荷を受けた後でも走れる身体を作ることです。
普通の1km走なら、脚も呼吸も比較的フレッシュな状態からスタートできます。
一方、HYROXではその前に全身運動をしています。
特にスレッド、ランジ、バーピーなどでは脚への局所的な筋疲労が大きくなります。
そこから急にランニングへ切り替える。
だから、
「普段5kmはそこそこ速く走れるのに、HYROXになると走れない」
ということが起こります。
これは単純にランニング能力がないという話ではありません。
疲労した状態で走る能力そのものを練習する必要があるということです。
私の現場視点:HYROX初心者ほど「種目を全部覚えること」に
意識が向きやすいですが、競技全体で考えると、
種目を終えたあとにどう走るかも同じくらい大切です。
低酸素トレーニングとは、通常より酸素が少ない環境で行うトレーニングです。
自然の高地へ行く方法だけでなく、
現在では酸素濃度を調整した常圧低酸素ルームなどを利用する方法があります。
低酸素環境では身体への酸素供給が制限されるため、
同じような運動をしていても身体には通常環境とは異なる刺激が加わります。
添付資料でも、酸素供給の低下に対してHIFを中心とした
生理学的反応や末梢組織での適応が起こる仕組みが整理されています。
ただし、
「酸素が少ない=同じ運動でも必ず効果が高い」
という単純な話ではありません。
低酸素では運動強度そのものを維持しにくくなるため、
設定を間違えると質の高いランニングや高出力トレーニングができなくなることもあります。
目的に応じた使い分けが必要です。
HYROXでは、筋力が必要なのは間違いありません。
しかし競技時間全体を見ると、
長時間にわたり運動を続けなければならないため、有酸素能力が土台になります。
VO₂maxとは、運動中に身体がどれくらい酸素を取り込み、利用できるかを示す指標です。
2022年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、
9研究・194名をまとめた結果、低酸素環境でのHIITは
通常酸素環境でのHIITよりVO₂max改善が大きかったと報告されています。
もちろん、VO₂maxだけでHYROXのタイムが決まるわけではありません。
ただ、高い心拍数の状態で運動を続け、
そこから何度もランニングに戻らなければならないHYROXでは、
有酸素能力を高めること自体に大きな意味があります。
HYROXを考えるうえで、こちらの方がさらに面白いポイントです。
低酸素環境で短時間の高強度運動を繰り返すRSHについて、
2025年のメタ解析では18研究、378名、55の効果量を統合しています。
その結果、通常環境での反復スプリントトレーニングと比べて、
低酸素を加えた方が全体的なパフォーマンス改善が大きく、
特に反復スプリント能力ではHedges’ g=0.61の効果が報告されています。
ここでポイントなのは、
「最大速度が劇的に上がる」という話ではない
ことです。
何度も高強度運動を繰り返したときに、
パフォーマンスを落としにくくする能力にメリットが示されています。
HYROXも、
ラン
↓
ステーション
↓
ラン
↓
ステーション
を何度も繰り返します。
競技そのものが反復型なので、この適応はHYROXと相性が良い可能性があります。
ポイント:低酸素トレーニングを「もっと苦しくする方法」と考えるより、
疲れた状態でも運動を繰り返す能力への刺激を変える方法と考えると分かりやすいです。
資料では、HYROXにおける課題として「Compromised Running」、
つまり疲労した状態でのランニングが取り上げられています。
これは実際のHYROXトレーニングを考えるうえでも重要な考え方です。
たとえば、
ランだけ30分。筋トレだけ60分。
という練習だけでは、
「脚が疲れた直後に走る」経験が不足します。
そこで低酸素環境を使う場合も、単純に30分走るだけではなく、
下半身運動→ランニング
というように競技特性を残した方が、HYROXへの応用を考えやすくなります。
低酸素環境を利用できるからといって、
すべてを低酸素にすればいいわけではありません。
むしろおすすめしたい考え方は、
通常環境で競技特異的なHYROX練習を行い、
低酸素は特定能力を刺激する補助トレーニングとして使うことです。
たとえば、
を繰り返します。
添付資料でも、低酸素環境で下半身運動を行ったあとに
トレッドミル走へ移る「ブリックセッション」がHYROX向けの応用例として挙げられています。
ただし、これはHYROX選手を対象に有効性が確立された標準プロトコルではありません。
あくまで低酸素研究の知見をHYROXの競技特性へ応用した方法として捉えてください。
低酸素環境では、同じペースでも身体への負担が大きくなることがあります。
そのため、
「いつものランと同じペースで走らないと意味がない」
と考える必要はありません。
むしろペースを追いすぎてフォームが大きく崩れたり、
トレーニング後の回復に支障が出たりすれば本末転倒です。
これは初心者の方ほどハマりやすいところです。
トレーニングは苦しければ苦しいほど良いわけではありません。
ここも非常に大切です。
低酸素トレーニングにメリットが期待できるからといって、
ランニング
筋力トレーニング
HYROX種目練習
を置き換えるものではありません。
HYROXなら、基本は、
| トレーニング | 主な目的 |
|---|---|
| 通常のランニング | 走力・ランニングエコノミー・持久力 |
| インターバル | 高強度での走力 |
| 筋力トレーニング | スレッドなどに必要な基礎筋力 |
| HYROX練習 | 種目技術・ペーシング・トランジション |
| 低酸素トレーニング | 有酸素能力・反復高強度能力への追加刺激 |
という位置づけで考える方が現実的です。
低酸素だけをやって、通常環境で走る量が足りなければ、
HYROXのランニングそのものは上手くなりません。
土台となる練習をしたうえで、どこに追加刺激を入れるか。
ここを間違えないことが大切です。
低酸素トレーニングは面白い選択肢です。
ただ、HYROXを始めたばかりなら、
「低酸素をやらないと勝てない」
と考える必要はありません。
まず、
を作る方が優先です。
その土台ができてきたうえで、
「もっと有酸素能力を高めたい」
「高強度の繰り返しに強くなりたい」
「ステーション後のランが課題」
となったときに、低酸素トレーニングを選択肢として考える。
この順番で十分です。
結局、HYROXでも一番強いのは、特殊な方法をたくさん取り入れる人ではなく、
基本的なトレーニングを継続したうえで、自分の課題に必要な刺激を選べる人だと思います。
低酸素トレーニングについて現在の研究から期待できるのは、主に、
です。
低酸素下HIITが通常環境でのHIITよりVO₂max改善に有利だったという研究や、
RSHが通常環境での反復スプリントより反復運動能力を改善したというメタ解析があります。
そしてHYROXは、
走る → 高強度ワークアウト → また走る
を繰り返す競技です。
そのため、低酸素トレーニングによって得られる適応の一部は、
HYROXの競技特性と重なる可能性があります。
ただし現時点では、
「低酸素トレーニングを行えばHYROXのタイムが○分縮まる」
といった直接的なエビデンスはありません。
通常のランニング・筋力トレーニング・HYROX種目練習を土台にし、
そのうえで課題に応じて低酸素を追加する。
このくらいの距離感が一番現実的です。
派手な方法を一つ見つけるより、必要な練習を続け、その中に目的のある刺激を入れていく。
HYROXでも結局、その積み重ねが一番強いです。
HYROXは、最初から8km走れたり、すべての種目を上手くできたりする必要はありません。
実際、最初は「思ったよりきつい」「自分には無理かも」と感じることもあります。
でも、走れる距離を少しずつ伸ばす。
種目の動きを覚える。
疲れた状態でも動ける身体を作る。
そうやって一つずつ準備していけば、できることは増えていきます。
LAULE’Aでは、HYROXが初めての方や、
トレーニング・ランニング経験が少ない方でも始めやすい環境を大切にしています。
「大会には興味があるけど、何から始めればいいか分からない」
「自分がどれくらいできるのか知りたい」
「一人で練習するのは少し不安」
そんな方は、まず実際にHYROXの種目を体験して、
自分の現在地を知るところから始めてみてください。
最初から出来なくて大丈夫です。
まずは“完走できる身体”を一緒に作っていきましょう。